2025年09月01日
COCOSA 2025 AUTUMN/未完
未完(井上 尚之/陶芸家/小代焼ふもと窯)
年間約20,000点。
より良い作品を求めて
今日も土に向き合う。
しかし最高傑作には出会わない。
良いものができると、
もっと良くしたくなるから。
自分らしさは、自分では決めない。
もっといい作品を作る自分でありたいから。
右 / 井上 尚之(陶芸家/小代焼ふもと窯)
Creative Direction:Keitaro Hamakado(@keitaro_hamakado )
Design:apuaroot
Photo:Yoshiko Otsuka(@mason5 )
Movie:Haruki Anami(@harukianami )
Model:Naoyuki Inoue(@fumotgama )
◎COCOSA 1階 URBAN RESEARCHにて小代焼ふもと窯の作品を販売中!
※作品販売は仕入れ状況によります。
interview
― 陶芸の世界に入ったきっかけを教えてください。
元々、陶芸をやるつもりはなかったんです。実家が窯元なので、身近ではありましたけどなんとなく「楽じゃなさそうだな」と思っていて。でも、20歳の頃にいろんなところを旅する中で、小石原で出会った太田哲三先生の人柄に惹かれて、「この人のもとで学んでみたい」と思ったのが大きかったですね。
― 修行時代はどんなことを学ばれましたか?
意外かもしれませんが、最初の4年間はほとんど土を触らなかったんです。左官屋さんの手伝いや、大工さんの作業を見せてもらったり。美しさって、器の形や模様だけじゃなく、庭の石の積み方や木の向きにも宿るんだなって思わされる経験でした。そういう感覚は、今のものづくりにもすごく生きていると思います。
― スリップウェアとの出会いは?
僕がやっていた技法がスリップウェアに近くて、それを見た方から「それ、スリップウェアって言うんだよ」と教えてもらったのが始まりでした。その時は言葉すら知らなかったんですが、調べていくうちにどんどん面白くなってきて。イギリスでは17世紀ごろから日用品として使われていて、模様には骨やリボンを思わせるようなものも多くある。器に料理をそのまま入れて焼くという文化もあって、土の器と日常の生活が密接につながっている。その“暮らしに根ざした美しさ”に惹かれました。
― 実際に作ってみて、どんな手応えがありましたか?
しましま模様を試したときに、「いいスリップができたね」って言ってもらえたのがすごく嬉しかったです。スリップウェアという名前で出したら思った以上に売れて、「やりたいこと」と「評価されること」が重なった瞬間でした。でも同時に、「売れたから評価されたのか、自分を売れる方向に寄せただけなのか」って思うこともあって。最近は、自分らしさって、案外自分じゃなくて周りが決めてくれるものかもしれないなって思うようになりました。
― 焼き物を続けるなかで、暮らしや仕事への考え方は変わってきましたか?
だいぶ変わりましたね。昔は「何を作るか」に一生懸命だったけれど、今は「どう生きたいか」が軸になってきた気がします。無理をせず、気持ちよく続けられるやり方を選ぶようになりました。自分が自然体でいられることで、器にもその空気が出てくる。誰かの食卓にすっと馴染んでくれる器が作れたら、それが僕にとっての「ちょうどいい」ものづくりだと思います。
― 作陶の中で、大切にしていることはありますか?
「一度でも使ってもらえる器を作ること」です。焼き物って、一度焼いたらもう粘土には戻れない。つまり資源を使い切る行為なんですよね。だからこそ、ちゃんと生活の中で使ってもらえる器を作りたいと思っています。手に取ったときの感触や、重ねたときの収まりの良さ。見た目だけじゃないところまで考えて作ることで、生活に寄り添える器になるんじゃないかと。
― 焼き物の面白さは、どんなところに感じていますか?
完成がないところですかね。「これで満足」って思った瞬間に、「じゃあ次はどうしよう」ってなる。あと一窯に3,000点とか焼かないといけないので、準備にもものすごく手間がかかる。でもだからこそ、うまくいったときの喜びも大きいし、うまくいかないからこそ面白い。
― 今後、どんなことを目指していきたいですか?
私は今50歳なんですけど、60歳の自分をどう作るかを考えながら動いています。名前を残すとか、技術を磨くとか、そういう“地盤づくり”の10年にしたい。70歳には「ちょっと面倒くさいおじさん」になっていたいんです(笑)。若い人たちに「うるさいなあ」と思われるくらいの存在感は残したいですね。
― 自分らしくあるために、日々心がけていることは?
夜、一人で作業場にこもる時間が大事ですね。静かに器と向き合えると、自分の今の状態がよく見えてくる。無心で手を動かす、というよりも、「もっと良くなるには?」と考え続けるタイプなので、そういう時間があると落ち着きます。毎日少しずつ、自分のペースで手を動かしていく。それが僕にとっての「等身大」なんだと思います。
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